2013年12月に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。そこからさらに世界的なブームとなっていった日本の食文化。なぜそこまで注目されるのか、それは理想的な栄養バランスやヘルシーさはもちろんですが、それだけが魅力ではありません。和食は食とともに、日本特有の四季や行事を大切にする心、そして相手を思いやるおもてなしの心遣いといった、温かく優しい人の心がたくさんつまった文化なのです。今回は、そんな魅力あふれる日本の食文化についてたっぷりご紹介していきます。和食の基本と合言葉 和食が健康にいいとされるのは、和食の基本が鍵となっています。ご家庭で、子どもの頃から言われることがあった人もいるかもしれません。様々な食文化が入り混じった現代では、なかなか難しく忘れられがちですが健康的なダイエットや食生活の見直しの際などには、まさにうってつけです。一汁三菜 和食の基本であり、まさに理想的な栄養バランスを作る献立。主食・汁物・主菜・副菜2品によって、それぞれ異なる栄養を一度にバランスよくとれます。主食は、エネルギー源となるご飯やパンなどの炭水化物。汁物は水分補給の役割も担うスープや味噌汁のことで、具によって栄養価は様々です。さらにお肉や魚、卵などでたんぱく質を多く含む主菜がメインとなり、野菜や海藻、きのこなどを使った副菜によってビタミンやミネラル、食物繊維を補います。あとは野菜や果物など足りない栄養素をもう一品、副々菜で追加すると完璧な一汁三菜の完成です。三角食べ ご飯とおかずを交互に食べる、和食の基本の食べ方です。主食のご飯と、汁物、主菜、副菜を交互に口にして、口の中で混ぜ合わせて食べます。そうすることで、個々に料理を食べるよりも味に変化があり、咀嚼数も増えることで唾液の分泌も増えて消化を助けてくれます。さらに満腹中枢も刺激され、食べ過ぎの防止になったりと良いことづくめですね。口中調味とも呼ばれ、健康的に食事を楽しめる食べ方といわれています。ただこれは、一汁三菜が基本の日本など一部の国ならではの食べ方です。コース料理などの一品ずつ出てくる食文化の国ではそうした習慣がなく、やろうとしてもなかなか難しいとされています。まごわやさしい 「ま・ご・わ・や・さ・し・い」とは、医学博士で食育研究家でもある吉村裕之先生が発案した、バランスが整った食事の合言葉です。言葉自体は、最近のものですが昔から親しまれている日本らしい食材の頭文字をとっています。食スタイルがどんどん変化して、健康的な食生活が注目されている現代において、和食の基本として広まっている考え方です。ま(豆:大豆製品、味噌や豆腐、あずきや黒豆)ご(ごま:白ごま、黒ゴマ、ナッツ類)わ(わかめ:昆布、ひじき、海藻類)や(野菜:緑黄色野菜、根菜)さ(魚:白身魚、青魚、魚介類)し(しいたけ:キノコ類)い(芋:さつまいも、里芋、長いも、芋類) これらの食材を意識的に摂ることで、自然と栄養バランスのとれた食事になります。どれも栄養が豊富なものの、低カロリーで和食と相性の良い食材ばかりですね。日本の和食には欠かせない食材でもあります。四季と行事の関係 日本には世界でも珍しい、春夏秋冬4つの季節があります。日本人は昔から、その一つ一つの季節の風情を感じ、移り変わりを堪能する習慣がありました。そしてそれを、食でも表現して楽しむというのも和食の特徴です。季節の花や葉で飾ったり、旬の食材を使って調理したり、季節にちなんだ器や調度品を使ったりと表現の仕方は様々でどれもおもむきがあります。食で四季の移り変わりを感じることができるのは、和食ならではです。 また、日本の行事も和食と深く関わっています。年越しそばにお正月のおせち料理、節分の恵方巻、お彼岸にはおはぎなど、その時に食べる料理によって縁起をかついだり様々な願いが込められたりしてきました。それらは行事食として、日本の和食文化に深く根付いています。日本特有のうま味 古くから和食料理に必要不可欠なのが、出汁です。日本では、調味料に頼りすぎず、素材そのものの香りや味わいを生かした調理法が愛されてきました。出汁は、和食の基本的な要素であり、料理の骨格とも言えます。また出汁には、食材の「うま味」成分がたっぷり含まれているため、美味しく感じることができるいわば天然の調味料です。世界でも、甘味・塩味・酸味・苦味の4つの基本味に加えて、第五の味覚として日本の「うま味」が広く認識されていきました。必要以上に調味料を使わずに、素材本来の味をちゃんとおいしく楽しめるので、赤ちゃんの離乳食などにも出汁調理が使われています。鰹節やしいたけ、こんぶなど海や山の食材からとれる出汁は和食の、身体によいヘルシーな印象を引き立たせている特徴の1つかもしれません。代表的な伝統料理 日本食文化には4つの伝統料理があります。名前だけは聞いたことがあるものの、実際どういう料理なのかわからない人も多いのではないでしょうか。生まれた流れに沿ってそれぞれの特徴をご紹介します。精進料理(しょうじんりょうり) 肉や魚を使用せず主に野菜や穀物などを使った料理です。殺生を禁ずる仏教の教えから、僧侶が修行のために食べていたとされています。出汁も鰹節やにぼしが使えないため、昆布やしいたけなどからとる精進出汁が使用されました。食材の根や皮も無駄にすることなく、ヘルシーで栄養面にも優れたことから、現代の健康食ブームにより注目も高まっています。本膳料理(ほんぜんりょうり) 室町時代に、武家が客人におもてなしをするために誕生したとされる料理です。一汁三菜の始まりでもあり、脚のあるお膳に料理を全てのせて提供されました。この頃の一汁三菜とは、ご飯と汁物以外のおかずは主に、なます、焼き物、煮物の3つで、そこにお新香がつきます。どこにどの品を置くかも決まっており、客人の位やおもてなしによってお膳の数も増えたそうです。一汁三菜や料理の配置など、現代の和食の原点とも言われています。懐石料理(かいせきりょうり) 安土桃山時代に、千利休が茶会に取り入れたとされる料理です。あくまでお茶を楽しむことが目的なため、先に軽い食事をしてからお茶を美味しくいただいたというのが由縁にあります。また旬なものを使って、素材の味を活かし、おもてなしの心を大切にするという三大原則があり、千利休のおもてなしの心や茶道の侘び寂びもこめられています。懐石料理も一汁三菜ですが、本膳料理のお膳と違い膳が増えることはなく、脚のついていない折敷(おしき)とよばれる膳にのせて提供されていました。会席料理(かいせきりょうり) 同じ読み方で漢字が違うため、よく混同されがちな会席料理。懐石料理と大きく違うのは、目的です。会席料理は、お酒を美味しく飲むために出される料理であり、品数や量も多く主に宴会の席などで提供されます。見た目も華やかで、特に食べ方や献立に細かい決まりなどもありません。現代でも料亭や割烹などの、高級料理店で提供されています。ただどちらもおもいやりとおもてなしの心がこもった三大原則は共通しています。そしてこれらは、現代の料理店でも変わらず引き継がれています。まとめ 日本の食文化は、昔から自然を尊重し、食物やそれを与えてくれる土地や海に感謝してはぐくまれてきました。そんな人々の感謝の気持ちが根本にあってこそ、おもてなし精神や丁寧な調理技術となって和食が成り立っているのかもしれません。和食について、知るほどに日本の人々の様々な心に触れていくような温かさを感じます。和食を食べると、なぜかホッとするのは慣れ親しんだ味とともに、料理に込められた人のおもいやりを受け取っているからではないでしょうか。作り手も食べる側も、素晴らしい食文化をもつ日本人としてこれからも健康的に美味しく食を楽しんでいきたいですね。