先住民族は、自然との共生、持続可能な生活様式、そして共同体の結束といったさまざまな面において、先進国に住む私たちに重要な教訓を提供してくれています。自然と調和して生活する彼らの暮らしは、限りある資源を無駄なく生かすことの大切さや、環境問題への新たな視点をもたらし、地球との関係を改めて考えさせる機会を提示しているのではないでしょうか。また彼らが築き上げた共同体を見てみると、互いに支え合いながら、困難を乗り越える重要性、そして社会的なつながりを強化するヒントを示唆してくれています。本記事では、先住民族の暮らしについて事例を挙げて解説しつつ、そこから今の私たちが学べることについて解説します。先住民族について先住民族と聞いて、みなさんはどのような人々のことを想像するでしょうか。なかには、奥深いジャングルの中で生活している人々を思い浮かべる方もいるかもしれません。確かにパプアニューギニアの先住民※1や、アマゾンの奥地に暮らす人々などは、現在でもそのような生活を送っていますが、必ずしも非文明的な人々だけが先住民というわけではありません。国際労働機関(ILO)が行った調査によれば、先住民族として認知される人々は世界中に存在しており、その数は世界人口の6%を占めると報告されています。つまり、世界人口のおよそ4億7600万人が先住民族であり、全世界の90カ国以上の国々に5000を超える先住民族が生活しているそうです※2。先進国である日本に住む私たちにとっては意外なことかもしれませんが、グローバルな視点で世界を見てみると、先住民族の人々は身近な存在であると言えるでしょう。また同機関による報告を見てみると、先住民族の約8割が中所得国で生活しており、1日2ドル以下の生活を強いられる人々が19%を占めているという現状があります※3。そのため、彼らの伝統や文化、生活様式を守りながらも経済開発の支援が急務となっています。※1|参考|秘境に住む先住民族※2・3|参考|国際労働機関|先住民が直面している貧困と不平等に取り組む緊急の行動が必要先住民族の暮らしでは先住民族の人々は、どのような経済的困窮に直面しているのでしょうか。例として、ブラジルのアマゾンに住む先住民の生活を紹介してみましょう。ブラジル全国には、およそ90万人もの先住民族が生活しているとされ、そのうちの50%がアマゾンで暮らしています。さらに単一民族として生活しているのではなく、305の民族がコミュニティを形成し、270以上の言語が用いられているそうです。それぞれの民族が独自の風習や習慣、信仰を持っており、農業や漁業、狩猟といったアマゾンの自然を活かした伝統的な生活を営んでいます。その一方で、先住民族の人々の労働環境の劣悪さや、貧困層の拡大が広がっているという現実があることを忘れてはいけません。先住民族の86%以上が、劣悪な労働環境の下での生活を余儀なくされ、その多くが差別を経験していると言われています※4。また、女性の権利や地位の確立も進んでおらず、基礎教育の未修了や貧困率においても、非先住民族の女性と比べて高水準であるため、全世界的な解決が求められているのが現状です。※4|参考|特定非営利活動法人|熱帯森林保護団体(RFJ)|アマゾンの先住民族先住民族にはどんな人々がいる?先住民族としてよく知られる人々を見てみましょう。彼らの生活に共通するのは、伝統的な生活様式を維持しつつ、自然や家族を大切にする点にあります。アボリジナル・ピープル先住民族としてよく知られる人々に、アボリジナル・ピープルと呼ばれる人々がいます。読者のみなさんも、社会科の授業で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。オーストラリア大陸やその周辺諸島に住む先住民族で、ヨーロッパ人による植民地化以前から同地に住んでいた人々です。かつては「アボリジニー」とも呼ばれていましたが、差別的意味合いを含む呼称であることから、近年は「アボリジナル・ピープル」とも呼ばれるようになりました。一口にアボリジナル・ピープルと言っても、住む地域によってその特徴はさまざまであり、乾燥地域に住む人々や海岸地域に住む人々では言語や習慣が大きく異なります。また、文字による文化を持たず、口伝により歴史が伝承されてきた点も大きな特徴です。サーミ族サーミ族は、ノルウェーやフィンランド、スウェーデンなどの北欧やロシアに住む先住民族です。彼らはトナカイを利用した遊牧民族であり、狩猟や遊牧による生活を営んできました。現在は定住する暮らしを送っているものの、トナカイを使った伝統工芸品や狩猟文化は続けられているそうです。サーミ族の起源は古く、紀元前1世紀にはその存在が確認されています。マオリ族マオリ族は、イギリス人が植民地にする以前からニュージーランドに住んでいた先住民族です。もとは300年ほど前にポリネシアン地域から移住してきた人々とされ、現在でも人口のおよそ15%を占めると言われています※。昨今、日本でも注目を集めているラグビー・ワールドカップにおいて、試合前に踊る「ハカ」と呼ばれるダンスを踊ることでも有名です。※具体的な数字は時間とともに変動する可能性があります。彼らは顔や体に色鮮やかなタトゥーを入れる伝統があり、現在もその風習が残されています。また「マオリ」とは現地の言葉で「普通」を意味し、マオリ族の人々が彼らが自分たちの文化や言語を大切にし、他の文化と区別するために使われた言葉です。先住民族の暮らしから学べること近代化した生活を送る私たちにとって、先住民族の人々の暮らしからどのようなことが学べるのでしょうか。環境問題が深刻化する現代において、先住民族の人々がこれまで培ってきた知恵の中にその解決策があるかもしれません。自然と調和して生きる現在、私たちはさまざまな環境問題に直面しています。そのなかでも「5大環境問題」と呼ばれる問題は、全世界的に早急に対処しなければならない問題です。5大環境問題とは、・地球温暖化・海洋汚染・水質汚染・大気汚染・森林破壊のことを言い、いずれの分野においても地球規模で深刻な状態にあります。こうした環境問題を解決する糸口として、先住民族の人々の自然観が活かせるかもしれません。上述したアボリジナル・ピープルといった先住民族の人々は、常に自然の循環に尊重と感謝の念を示し、土地や動植物に敬意をもって生活しています。そのため、自然災害が起きた場合でも、彼らは独自の解決法を知恵として持っており、現代社会に住む私たちにとっても、お手本として学べるものがあります。実際、5万年以上の歴史があるアボリジナル・ピープルの人々は、大規模な火災を防ぐスキルを備えているそうです※5。私たちは自然と共に生活しており、自然に生かされていることをもう一度思い出す必要があるかもしれません。※5|参考|世界知的所有権機関WIPOマガジン「気候変動への取り組みと持続可能性:解決策の一部を担う先住民族」コミュニティの結びつき先住民族の人々はコミュニティの結びつきを大切にします。彼らは長い期間、同じ民族で暮らすことが多く、家族や共同体の結びつきを重んじてきました。そのため、伝統的な行事や風習を通じてコミュニティ内での絆を深め、お互いを支え合う文化が根付いています。その一方で、先進国に住む私たちのコミュニケーションやコミュニティはどうでしょうか。いつでも、どこでも人とつながることができるものの、人間関係が希薄になり、孤立感を感じてる人々は少なくないようです※6。他者とのつながりのあり方について、先住民族の暮らしから学べることは多いのではないでしょうか。※6|参考|内閣官房|孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和4年人々のつながりに関する基礎調査)p6~p12持続可能な生活先住民族は長い間、自然と調和した生活を送ってきました。彼らは、狩猟、農業、採集などを行いながら、資源の適切な利用方法や再生の重要性を実践しています。たとえば、狩猟する際には必要以上の獲物を狩ることを避け、自然のリズムに合わせた狩猟を行うなど、持続可能な資源管理を実践しています。最近では、海産物の乱獲により海洋資源が減少傾向にあり、将来的には海洋資源が利用できなくなることも懸念されているようです。持続可能な生活を送るためにも、先住民族の生活の知恵を知り、一人ひとりが資源保全に対する意識を持つことが課題となっています。受け継がれた知恵を活かす生活を心がけよう今回は先住民族の人々の生活や、そこから私たちが学べることについて紹介しました。先住民族の知恵と伝統は、現代社会においても重要な示唆を与えてくれます。彼らの持つ自然との調和や共同体の結束、SDGsにもつながる持続可能な生活スタイルは、現在の私たちが直面する課題に新たな解決策を提供してくれるかもしれません。そのため、彼らの文化や知恵を尊重し学ぶことは、より持続可能な未来を築くための一歩となると言えるでしょう。この記事がみなさんにとって、持続可能な社会への気づきのきっかけになれば幸いです。☆MiCORAYピックアップ☆・JAPAN PLATFORM・難民支援協会・WWジャパン・一般社団法人 JEAN・日本SDGs協会