はじめに「心理学」というと、どのような印象ですか?「むずかしそう」と感じる方も、「興味ある」と思う方もいるかもしれません。ひとことに「心理学」と言っても、さまざまな心理学の分野があります。本記事は、その中でも「行動心理学」「ポジティブ心理学」「臨床心理学」「経営心理学」についてご紹介していきます。行動心理学人とのコミュニケーションをうまくとりたいとき、仕事でうまく交渉したいときなど、「心が読めたらいいのに。」と思ったことはありませんか?行動心理学はそんなときに役立ちます。人のしぐさや行動から、その裏にある心理を明らかにする学問です。ふとしたしぐさに、本音があらわれることがあると言います。たとえば、人が立っているときの足のつま先に注目してみましょう。足のつま先は、関心のあるほうに向く傾向があります。「早く帰りたい」と思っているとき、つま先は帰り道に向いている場合が多いそうです。自分では気づきづらいですが、足のしぐさに本音が出ているのです。また、目の動きにも心理があらわれます。「目は口ほどにものを言う」ということわざもありますね。「左右に動かす」と相手ではなく、周りに興味がある、話に集中していない。「上下に動かす」と、周りではなく相手に好意や興味がある、話に集中していると言われています。他にも、「まばたきが多い」と、不安や緊張を感じている、「目が合ったあとそらす」と、意識している、「上目づかい」は、甘え、信頼、服従のしるしetc……目の動きによって心の状態があらわれるのです。行動心理学で心の中がわかってしまうとなると、少しドキッとしますね。しかし、行動心理学を知ることは、仕事やプライベートでの良好なコミュニケーションをとるヒントになるでしょう。また、自分の行動から、自分でも気づいていなかった心理に気づくかもしれません。楽しみながら、うまく取り入れてみると面白いかもしれませんね。ポジティブ心理学ポジティブ心理学は、1998年に心理学者マーティン・セリグマン氏が提唱した幸せについて科学的に研究した学問です。ポジティブ心理学は統計データをもとに導きだされており、多くの人に効果があると実証されています。マーティン・セリグマン氏が著書「ポジティブ心理学の挑戦」でポジティブ心理学エクササイズをいくつか紹介しています。感謝の訪問うまくいったことエクササイズよいこと日記怒りや恨みの感情をニュートラルな感情に変えるポジティブな自己紹介セリグマン氏の「感謝の訪問」エクササイズは、これまでお世話になった人に感謝の手紙を書き、その人を訪問して感謝の手紙を読み上げるというものです。内容には、その人が何をしてくれたか、自分にどう影響があったか、自分がいま何をしているかを盛り込みます。また、「うまくいったことエクササイズ」は毎晩、その日1日でうまくいったことを3つ書き出します。それぞれ、どうしてうまくいったのかも書き留めます。「よいこと日記」もよかったことを書き留めることで、物理的に記録に残していくのです。「うまくいったことエクササイズ」や「よいこと日記」は楽観性を高めてくれます。書くことによって、ものごとを論理的に考えられるようになる効果もあります。すると、よいことが起こるような道筋も理解でき、環境を自ら作っていくことができるようになるそうです。これらのエクササイズをとおして、人生の満足度が高まり、幸せをより感じられるという効果が確認されています。人にたいして感謝の気持ちをもっていても、普段なかなか声には出さないもの。しかし、相手にその気持ちを伝えることは、その方だけでなく、自分も幸せにするのですね。ポジティブ心理学の研究は他にも多くの幸福度に影響する因子や環境が明らかにされてきています。近年、企業や教育の現場でも注目があつまっているポジティブ心理学。研究で効果が立証されているさまざまなエクササイズがあるので、生活に少しずつ取り入れてみるのもいいですね。きっと小さなしあわせに気づく力が高まって、より自分らしく心地よい人生になっていくのではないでしょうか。臨床心理学臨床心理学は、心理的に不健康な面や問題行動をもつクライエントを、より健康な方向に導くための心理学です。「臨床」とは「床(ベット)に臨む」ということ。臨床心理学では、この「床」は場=生活の場ととらえます。つまり、「床」は人間が生きている現実の場なのです。このことを踏まえると、臨床心理学は、人間が生きている現実で、何らかの心の問題や、問題行動を抱える人を理解し、心理学的知識を用いてその改善を目指して支援していく学問であるといえます。もともとは、1896年にウィットマーがペンシルバニア大学に心理クリニックを開設したのがはじまりと言われています。このクリニックは学習や学校生活に問題をもつ子どもを対象として、研究や実践を行うことを目的としていました。近年の学校における「スクールカウンセリング」も臨床心理学の新たな実践領域として、飛躍的に需要が高まっています。不登校、いじめ、心身の症状など、問題がおきてからの対応ばかりか、発生予防も目指し対応していきます。学校心理臨床活動には5本の柱があります。個別相談のカウンセリング、対応策の情報提供を含むコンサルティング、心理教育のプログラム、危機介入、システム構築による体制づくりです。現在は、学校だけでなく、病院・医療機関、福祉、家庭、スポーツ、産業等さまざまな現場で臨床心理学は必要とされています。このように、臨床心理学は現場で必要とされていて、現場で生きる学問と言えます。経営心理学経営心理学とはビジネスや経営の領域で、心理学の原理や理論を応用する学問です。組織や企業において、従業員のモチベーションをあげる、チームワークを高める、リーダーシップを発揮するといった課題に向き合い、経営やビジネスにおける成功や効率性を向上させるための実践的な心理学です。経営心理学で多くテーマにされるのは主に次のような問題です。従業員のモチベーションやパフォーマンスチームワークやコミュニケーションリーダーシップ顧客心理の解明経営の意思決定と判断たとえば、従業員のモチベーションをあげるためにはどのようなことができるでしょうか?一例として「照明を変えるだけでモチベーションが上がる」というカナダのトロント大学の研究があります。天井の照明を19個つけている明るい部屋と、同じ部屋の大きさで4個しか照明をつけていない薄暗い部屋を用意し、大学生に自分が希望する会社に就職できるかアンケートをとりました。すると、明るい部屋だと「希望どおり就職できる」と感じた大学生が多かったのに対し、薄暗い部屋では「たぶんダメだ」と絶望を感じる大学生が多いという結果になりました。このことから、社員のモチベーションをあげるには、薄暗い部屋よりも明るい部屋の方がいいと言えます。また、アメリカのノースウェスタン大学のメーガン・ブッセ氏は、自動車の売り上げについて、面白い発表をしています。「晴れた日は、曇った日に比べ、黒い車の売り上げは5.6%落ちる。温かい日はオープンカーの売り上げが増える。ただし、気温が高すぎる日にはオープンカーの売り上げは落ちる。」というものです。暑い日には黒い車が暑苦しくて売り上げが落ち、気持ちよさそうなオープンカーの売り上げがあがるのですね。このような顧客心理も経営心理学では見逃せない視点です。経営心理学をうまく用いることで、従業員の働きやすさ、組織としてのつながりや効率性が向上し、それが企業の成長につながっていくでしょう。おわりに「行動心理学」「ポジティブ心理学」「臨床心理学」「経営心理学」についてご説明しました。心理学というと、「なんだかむずかしそう」と感じる方も多いかもしれません。しかし、実は身近なところで心理学は多く使われています。「幸せを研究する心理学ってなんだろう。」「人の心理ってどう行動に現れるのかな。」など楽しみながら心理学にふれてみるのも面白いかもしれません。よかったら、まわりにどんな心理学があるのか探してみてくださいね。参考資料今日から使える行動心理学 (スッキリわかるシリーズ) 齊藤勇(著)ポジティブ心理学の挑戦”幸福”から”持続的幸福”へマーティン・セリグマン(著), 宇野カオリ(監修, 翻訳)はじめて学ぶ人の臨床心理学杉原一昭(監修), 渡辺映子 (編集), 勝倉孝治(編集)公認心理士をめざす人のための臨床心理学入門 末木新(著)ビジネス心理学の成功法則100を1冊にまとめてみました 内藤誼人(著)