嬉しいことや楽しいことがあった時、自然と笑顔になりますよね。自分の話で相手が笑顔になってくれたら嬉しいですし、一緒にいる人たちが笑顔だと幸せな気持ちになると思います。しかし裏を返すと、周りの人たちは笑顔なのに自分だけがムスっとした顔をしていたら気を遣わせてしまうかもしれないと、無理して笑顔を作ってしまうこともあります。相手に嫌なことを言われたり、つまらない話をされた時に愛想笑いをした経験がある方も多いのではないでしょうか。笑顔に見えても、心の底では別の感情を抱いていることは多々ありますが、それをどうやって見抜いたらいいか気になりませんか。笑顔の微妙な違いから、相手が本当に思っていることを見抜くための表情心理学を紹介します。表情と感情は矛盾する悲しいことがあっても周りに悟られないよう笑顔で過ごしたという経験はありませんか。私たち人間はポーカーフェイスを貫くことができる生き物です。表情と感情が矛盾している状態のことを心理学では感情偽装と呼びます。偽装と聞くと悪いことのように感じるかもしれませんが、感情偽装は人間として自然な状態で、決して悪いことではありません。1986年にアメリカでパメラ・M・コールが行った「期待外れのプレゼント」という実験があります。実験では3〜4歳を対象にすでに持っているなど期待していなかったプレゼントを渡された時にどんな表情をするかの観察を行いました。ほとんどの子供たちが内心失望しているにもかかわらず、笑顔を見せたそうです。相手に嫌な思いをさせないよう子供であっても無意識に感情偽装をするのです。1988年に同様の実験がアメリカ、イギリス、日本でも行われましたが、文化の違いのある国であっても結果は同じだったそうです。誰でも感情偽装はしてしまうものですから、パッと見ただけでは本音を見抜くことはできません。相手の本音を見抜くためには、注意深く相手の表情を観察しなければならないのです。本当の笑顔と嘘の笑顔自分が笑顔になる時を思い出すとイメージしやすいと思いますが、本当の笑顔はポジティブな感情になったときに自然と湧き出てくるものですよね。逆に感情偽装をした嘘の笑顔は、意識して表情だけを取り繕ったものだと思います。本当の笑顔と嘘の笑顔の違いは科学的に解明されています。19世紀フランスの解剖学者であるデュシェンヌ・ド・ブローニュが笑顔について研究を行いました。本当の笑顔のことをデュシェンヌの名前から「デュシェンヌ・スマイル」と呼ぶそうですよ。研究では、口角を引き上げる働きをする大頬骨筋と目の周りを囲んでいる眼輪筋が同時に動くときに自然な笑顔が作られることが証明されました。喜びの感情が生まれたときに眼輪筋は活性化されましたが、喜びの感情がない場合は眼輪筋の繊維が活性化しないことが分かったのです。よく嘘の笑顔を表現するときに目が笑っていないと言うことがありますが、眼輪筋が動いていないということなので研究結果にあてはまっていますね。喜びの感情のない嘘の笑顔の時に眼輪筋が活性化しないのは、脳の神経回路の違いにも要因があります。私たちは表情を作り出す時に脳の神経回路を使いますが、本当の笑顔と嘘の笑顔では使う場所がまったく違うのです。本当の笑顔の場合は、ポジティブな感情が発生すると、大脳辺縁系にある扁桃体と視床下部が活性化され、錐体外路で処理されます。錐体外路は自分の意思とは関係なく表情を動かす場所のため、ポジティブな感情から無意識に笑顔を作り出します。一方嘘の笑顔の場合、意図的に表情を動かす運動皮質と錐体路が活性化され、笑顔を無理やり作り出しているような状態になります。口は意識的に笑みを浮かべることができますが、意識して目を笑うことが難しいのは脳の神経回路の問題でもあるのです。表面的に笑顔を作ることはできますが、そこに感情がこもるかどうかで脳と筋肉の動きが変わります。目尻にシワができず、口角のみが上がっている場合は喜びの感情のない嘘の笑顔ということ。目と口が同時に動くかどうかを見ることで、本当の笑顔か嘘の笑顔か見抜くことができるのです。嘘の笑顔を見抜く方法デュシェンヌの研究から目と口が同時に動くかどうかで嘘の笑顔を見抜くことができるのが分かりましたが、他にも方法があるので紹介します。消え方本当の笑顔の場合は時間とともにゆっくりと消えていきますが、嘘の笑顔の場合は一瞬で真顔に戻ります。面白い話を聞いて大笑いした時を思い出すと、笑った後も少しニヤニヤしてしまいますよね。本当に笑っているときは笑顔に余韻がうまれますが、嘘の笑顔では笑う必要がなくなると急に笑顔が消えてしまうのです。動作表情と動作が一致するかどうかもポイントです。笑顔で楽しそうに話しているのに落ち着きなく足を頻繁に組み替えている場合、本当は話を終わらせたい、その場から離れたいと思っている可能性があり、その笑顔は嘘の笑顔だということが言えます。左右非対称表情は左右対称であることが重要とされています。本当の笑顔の場合は左右対称ですが、嘘の笑顔の場合は対称にならないことがあります。口元や頬が片方だけ上がっている時は嘘の笑顔である可能性があります。微表情から感情を読み取る相手の本音を表情から読み取る方法の1つに微表情を見抜くというのがあります。本当の感情がフラッシュのように一瞬本音が顔に現れることを微表情といいます。0.5秒以内と言われるほど一瞬の変化ですし、ただ注目したからといって、微表情をすぐに見抜くことはできません。普段から相手の表情にしっかり注目するだけではなく、映画やドラマに出てくる登場人物の表情をじっくりと観察するなどのトレーニングをすることで見抜くことができるようになっていくそうです。喜びの微表情口角がわずかにあがり、目尻にシワができます。相手の発言に喜びを感じたけれど、笑顔になってはいけない場面などで感情を抑えようとしているのかもしれません。怒りの微感情眉が中央に引き寄せられ、目を見開き、口を堅く閉じます。笑顔で取り繕っているかもしれませんが、相手の発言に不満や嫌悪を感じ、それを隠そうとしている可能性があります。悲しみの微表情眉毛が八の字になり、あごにしわができます。笑顔で話を聞いているかもしれませんが、実は失望や幻滅などの否定的な感情を抱いているかもしれません。軽蔑の微表情片方の口角が上がっている場合は、軽蔑されている可能性があります。口元だけ笑っている嘘の笑顔で片方だけが上がっている場合は特に要注意ですね。恐怖の微表情目を大きく開き、眉があがり、口が一瞬だけ開きます。危険や不安を感じている場合も出る微表情で、傷つけないで欲しいと訴えるサインでもあります。その場の空気を読んで無理して笑っているだけで、実は悲しいことがあって悩んでいるなどが微表情にはあらわれます。笑顔の合間に喜びではない微表情が出てきたときは、それとなく問いかけてみるといいかもしれません。笑顔の裏に隠された本音人付き合いをしていく中で、愛想笑いや作り笑いをしなければならない場面も多いですよね。自分自身も嘘の笑顔をすることがあるように、相手が笑顔で話していても本当は別の本音を隠している可能性は十分にあります。嘘の笑顔を見抜く方法や微表情を読み取ることで、相手の本音を知ることができます。本音が分かれば相手の気持ちに寄り添うことができ、周囲の人たちとの信頼関係がこれまで以上に強くなるかもしれませんよ。参考文献幼児におけるネガティブ情動の表出制御と仲間関係幼児期における感情表出の調整に関する理解の発達