仕事を通じて大切なのは、社員一人一人のウェルビーイングの向上と働きやすさです。そして、その一環として、福利厚生の一つである「社員旅行」が現在再び注目されています。日常のストレスから解放され、チーム・ビルディングを促進し、新たな視点を開く機会となる社員旅行は、組織にとって不可欠な要素と言えるでしょう。このコラムでは、社員旅行の現状や目的、そしてユニークな成功事例について解説していますので、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。社員旅行の現状社員旅行といえば、福利厚生のなかでも一大イベントの1つ。MiCORAY読者の方も、一度は参加したことがある方も多いのではないでしょうか。しかし現在、社員旅行を実施する企業や団体は1990年代をピークに減少傾向にあります。人事部門の情報機関である産労総合研究所の調査によれば、社員旅行の実施率は2014年で36.9%、2019年のコロナ禍前は27.8%と、年々減少傾向にあることが明らかになりました※1。さらに、社員旅行を実施している企業、または団体の従業員数別の割合を見てみると、・従業員数299人以下が40.9%・非製造業28.4%、・製造業26.7%・1000人以上の企業・団体17.5%という結果となりました※2。このことから、従業員数が多い企業や団体ほど、社員旅行の実施率が低いことがわかります。全体の実施率は低下しているものの、一方で積極的に社員旅行を実施する会社も徐々に増えつつあるようです。その背景には、リモートワーク(テレワーク)が増えたことによる、社員のコミュニケーションの低下や、組織の団結力を高めるためなどが挙げられます。そもそも社員旅行の目的とは?では、そもそも社員旅行の目的はどのような点にあるのでしょうか。多様な働き方が増える現代社会において、その目的は大きく3つに分けられます。1.チーム・ビルディングの強化社員旅行の目的の1つに、チーム・ビルディングの強化が挙げられます。チーム・ビルディングとは、チームとしてのポテンシャルを最大限発揮できる組織づくりを目的とした取り組みのこと。例えば、社員旅行のアトラクションとしてチーム制のアクティビティを取り入れることで、社員同士の仲間意識が強くなり、コミュニケーションも活発になります。その結果チーム意識が向上し、生産性や業績アップにつながることが期待できます。2.人材の育成・教育として社員旅行の目的の2つ目は、人材の育成や教育です。旅行先ならではの研修やトレーニングを取り入れることで、人材育成や教育にも効果を発揮します。なかには、旅行先の施設を借りてワークショップなどを行う企業もあるようです。職場での社員研修とは異なり、楽しみながら研修を行うため、社員のモチベーション向上にもなります。日常の業務では気付けない、新たな視点を学ぶことも社員旅行の目的の1つです。3.リフレッシュをもたらす社員旅行に欠かせない目的といえば、社員へのリフレッシュの提供です。社員旅行を実施することで仕事とのメリハリが付き、同僚と同じ時間を過ごすことで、それまで見えなかった一面が見える場合もあるでしょう。また、休日の過ごし方が分からない社員にとって、社員旅行は良い気分転換の機会提供にもなります。社員旅行のメリット・デメリット新型コロナウィルスがインフルエンザと同様の5類に引き下げられ、社員旅行を実施する企業が徐々に増えているようです。JTBの調査によれば、2022年1月から2023年3月にかけて「社員旅行の予定がある」と答えた企業は、およそ60%まで増加しています※3。コロナ禍の収束により、再び注目を集め始めた社員旅行ですが、メリットがある反面、デメリットに感じる人も少なくありません。以下では社員旅行のメリットとデメリットを紹介します。<メリット>・社員同士の交流が深まる社員旅行の大きなメリットに、社員同士の理解の深まりがあります。社員旅行では、普段の職場だけでなく、違う部署の職員とも行動を共にします。そのため、社内での人脈も広がり、新たな発見の機会にもなるかもしれません。他部署の視点を聞くことでアイディアが湧き、業務の改善につながることもあるでしょう。・企業アピールにもなる社員旅行の充実は、企業アピールにも大きく影響します。どのような社員旅行が行われ、どんな企画を実施しているかをアピールすれば、求職者を惹きつけ、優秀な人材確保につながります。また近年では、SDGsの普及により「サステナブルツーリズム」が人気を集めているため、こうした取り組みに参加することで、「社会貢献をしている会社だ」と良い印象を持ってもらえるでしょう。<デメリット>・仕事の延長と考える人も社員旅行に対して、ネガティブな印象を持っている人も少なくありません。というのも、集団行動が苦手で、休日くらいは1人で過ごしたいと考える人もいるからです。また、ワーク・ライフ・バランスに影響が出る場合もあり、社員旅行を「仕事」として捉える人もいることでしょう。社員旅行により業務に滞りが出ることは、無視できないデメリットの1つです。・費用に不満を持つ可能性も福利厚生とはいえ、社員旅行の費用に不満を抱く人がいるのもデメリットと言えるでしょう。なかには会社が全額負担してくれる場合もありますが、多くは給料から積み立てているケースがほとんどです。そのため、社員旅行に対して後ろ向きな社員にとっては、費用面にデメリットを感じているようです。ウェルビーイングな社員旅行5選ここまで、社員旅行の現状やメリット・デメリットについて解説しました。賛否両論あるものの、企業のなかには、ユニークな社員旅行で大きな成功を収めているケースもあるようです。そこで以下では、ユニークな社員旅行を実施している企業を5つ紹介します。1.未来工業株式会社1つ目は岐阜県にある未来工業株式会社です。電設資材や管工機材を扱う同社は、他社にはないオリジナリティー溢れる商品開発でも知られています。「他社と同じモノは作らない」をポリシーとし、「スイッチボックス」の分野で国内トップシェアを誇っています。制服なし、全員が正職員、残業ゼロなど既存の常識を覆す社風でも話題となりました。そんな未来工業株式会社のユニークな社員旅行は、創業50周年にあたる2015年に行われた、イタリア国内52ヶ所の世界遺産全てをめぐるツアー。13のコースが用意され、社員は自分の興味に合わせた観光が楽しめます。その他、毎年開催される国内旅行や、5年に1度行われる海外への社員旅行は、すべて会社が負担しているそうです。未来工業株式会社2.株式会社CRAZYウェディングプロデュースやウェブサービスの企画・運営を行う株式会社CRAZY。同社では「GREAT JOURNEY」と呼ばれる社員旅行制度を採用し、社員のオリジナリティの育成に貢献しています。「GREAT JOURNEY」は一般的なリフレッシュ旅行と違い、「1人の人間としての感覚を味わうために大きく環境を変えること」を目的とした福利厚生です。また、「旅行の目的を明確にし、1人で7日間以上海外に渡航する」というルールを採用しています。株式会社CRAZY3.株式会社プラスアルファ・コンサルティング株式会社プラスアルファ・コンサルティングは、世の中にある情報のすべてを「見える化」し、ビジネスに+アルファの価値を創造することをコンセプトとしたIT企業です。同社は社員旅行だけでなく、各種イベントや食事代の費用を全額負担しています。社内コミュニケーションの活性化に重点をおいており、社員旅行を実施する際には、委員会メンバーが企画や構成の全てを担当します。株式会社プラスアルファ・コンサルティング4.株式会社シラック・ジャパン株式会社シラック・ジャパンはアメリカ・ロサンジェルスに拠点を持つ、身体補助器・医療器具メーカーです。社員には積極的に「旅すること」を推奨しており、2016年12月から始まった、チャレンジ(Challenge)と発見(Discovery)を促す旅行(Trip)の頭文字を取ったCDTの取り組みは、社員の独自性と独立性を育てる上で大きな役割を果たしています。CDTの創設以来、社員が訪れた国や地域は10カ国以上に上り、なかには1人旅を選ぶ社員もいるそうです。株式会シラック・ジャパン5.株式会社バンク・オブ・イノベーション株式会社バンク・オブ・イノベーションは、「世界で一番思い出をつくるエンターテインメント」をコンセプトにしたアプリケーション事業を展開する企業です。近年では「メメント・モリ」というゲームが大きな話題となりました。同社のユニークな取り組みは、在籍2年以上の社員が新婚旅行する際に実施される、「ハネムーン手当」。ハネムーン手当では、往復旅行チケットがプレゼントされるため、社員のモチベーションの向上に貢献しています。株式会社バンク・オブ・イノベーション社員旅行は減少しているけれど今回は社員旅行の今と、ユニークな社員旅行を実施する企業5つを紹介しました。データをみると、社員旅行を実施する企業や団体は減少傾向にあるようです。しかし、会社のチーム・ビルディングの向上や企画力、そして離職率の低下を目指し、各社さまざまな取り組みを実施しています。これから就職を目指す方、あるいは転職を考えている方は、社員旅行の項目にも注目して企業調査してみると良いかもしれません。★MiCORAYピックアップ★・社員旅行net・トラベルコ・JTB・株式会社 リロクラブ・ボーグル・楽天トラベル☜旅行で役立つグッズ紹介参考資料※1,2 産労総合研究所 2020年 社内イベント・社員旅行に関する調査※3 JTB 社員旅行のメリット・デメリットとは?実施企業の割合や計画の流れ、成功のポイントも紹介社員旅行net 社員旅行は「持続可能な観光」をテーマに実施してみませんか?サステナブルツーリズム特集ニッセイ基礎研究所 復活しつつある社員旅行ー職場内コミュニケーション重視への回帰ー参照HP観光庁 関連データ・資料集(令和4年4月20日)