日本と発展途上国との間には、働き方について大きな違いがあります。これらの違いには、文化、経済状況、社会構造など多くの要因が関わっており、日常生活に大きな影響を及ぼしているのが現状です。そこで今回は発展途上国における労働問題を解説し、日本の労働環境との違いについてご紹介します。ウェルビーイングに関心が高い、MiCORAY読者のみなさんにとって参考になると思いますので、ぜひ最後まで読んでみてください。発展途上国についてみなさんは、発展途上国に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。一般に「貧しい国」を想像しがちですが、実は世界196カ国のうち約150カ国が発展途上国に認定されています。これは全世界のおよそ7割に及ぶ数字であり、日本で生活する私たちにとっては想像しづらいですが、「世界の大部分の国々が発展途上国である」と考えても間違いではありません。発展途上国について明確な定義はないものの、経済開発協力機構(OECD)※1、が3年ごとに発表している「ODA(政府開発援助)受け取りリスト」に掲載される国々が、発展途上国と見なされるのが一般的です。そのため発展途上国とは、先進国と比較して経済や産業のレベルが低く、まさに発展途上の段階にある国々と覚えておいてください。また発展途上国の多くは、アジアやアフリカなど特定の地域に集中しています。※1経済産業省|OECD(経済協力開発機構)発展途上国の特徴発展途上国について明確な定義は示されていないと上述しましたが、発展途上国とされる国々には大まかに以下4つの共通点があります。1.一次産業を主産業にしている(農業・漁業・酪農などの単一産業)2.発展途上国に認定される以前は、「後進国」または「低開発国」とされていた国3.人口の多さ4.以前植民地とされていた国で、大部分が南半球の国々発展途上国の状況について、みなさんもメディアなどで1度は目にしたことがあるのではないでしょうか。かつて植民地にされていた国々では、現在でも単一産業の名残が根強く残り、労働環境の劣悪さと低賃金が大きな課題となっています。開発途上国との違い発展途上国という言葉の他に、「開発途上国」という言葉をご存じの方も多いと思います。しかしこの2つには違いはなく、近年では「発展途上国の定義があいまい」であることから、発展途上国に代わり「開発途上国」の名称が広まりつつあるようです。また、「開発途上」とはまさに、経済、産業、技術などが開発途上であることを意味しているため、今後はこちらの名称が一般的に使われることが予想されます。後発開発途上国について後発開発途上国とは、発展途上国の中でも著しく開発が遅れている国々の総称です。2022年8月時点で、アフリカ、アジア、中南米など46カ国が後発開発途上国に指定されています※2。後発開発途上国の定義として、3年間の1人あたりの平均国民総所得が1,018ドル以下や、栄養不足人口の割合、5歳児以下の乳幼児の死亡率、学校教育の就学率、識字率などが挙げられます※3また、経済力の強さや人口数、地政学的要因、環境状況などの項目も後発開発途上国を定義する上で重要な要素です。※2・3外務省|外交政策|貿易と開発|後発開発途上国発展途上国の働き方、問題点少しずつではあるものの、世界的な支援・援助により、発展途上国の状況は改善の兆しを見せています。しかし依然として多くの人々が貧困や飢餓、劣悪な労働環境に苦しめられているのが現実です。なかでも発展途上国の働き方において解決が急がれる問題には、大きく分けて以下の3つがあります。1.児童労働発展途上国における働き方において、もっとも重要な課題は児童労働です。貧困や差別、習慣や戦争など、児童労働の要因にはいろいろありますが、国際労働機関(ILO)及び国連児童基金(UNICEF)の報告書によれば、5歳から17歳までの児童労働者数は2020年時点で全世界1億6000万人に達しています※4。2000年と比べると、児童労働の数はこの20年で8000万人減少しているものの、それでも世界の10人に1人の子供が何らかの形で労働を強いられているのが現状です※5。また近年では、新型コロナウィルス感染症の流行により経済的な損失を受けた国々において、児童労働の増加が懸念されています。児童労働に従事する子供のうち3分の1が学校に通えず、5歳から11歳の子供の27.7%、12歳から14歳までの子供の35.2%が未就学であり、教育の提供にも重大な影響を及ぼしています※6。※4unicef|児童労働※5児童労働ネットワーク|児童労働データ|Q.児童労働者は世界に何人いるの?※6児童労働ネットワーク|児童労働データ|児童労働による就学への影響2.労働条件の不平等と低賃金発展途上国における労働問題の2つ目は、労働条件の不平等と低賃金です。発展途上国においては児童労働を含む多くの労働者が辛い肉体労働を強いられ、かつ低賃金で働かされています。これは発展途上国の産業形態(単一産業)が主な原因であり、仕事があったとしても1日2ドル以下(約300円)で働いている人の割合は、全世界のおよそ半数に及んでいます※7。そしてこの問題は、必ずしも発展途上国だけの問題ではありません。経済格差という観点からみると、中国やインドなどの新興国では都市部と農村部との国内ギャップが大きく、1つの国の中でも不平等と低賃金の格差が広がり続けています。※7unicef|持続可能な世界への第一歩|SDGs CLUB|1-1より3.安全な労働環境の確保と健康維持が課題児童労働や労働条件の不平等の他に、労働環境の整備も重要な課題です。発展途上国においては労働環境が十分に整っておらず、怪我や病気のリスクと隣り合わせの労働がしいられています。さらに紛争地域においては、戦争で用いられた地雷の脅威の中で子供達は働かなくてはならない状況も忘れてはなりません。労働環境はもちろん、設備や装備の充実や経済成長、そして地域紛争の終結など、発展途上国の労働環境の改善には一刻を争う解決が求められています。日本の働き方の変遷ここまで、発展途上国における働き方の課題について紹介しました。21世紀となった現在でも多くの人々が貧困や飢餓に苦しんでいる現状が伝わったのではないでしょうか。その一方で、日本は戦後の高度経済成長を経て、一時期は「JAPAN AS ナンバー1」と称されるほどの経済発展を遂げました。以下では、戦後日本の働き方の移り変わりについて紹介します。1.終身雇用からワーク・ライフ・バランスの見直しへ1950年代から60年代にかけて、日本は高度経済成長の時代に突入しました。この時代の日本は好景気にわき、製造業、運輸業、建築業などさまざまな分野で目覚ましい発展を見せます。そしてこの時代に考案されたのが「終身雇用」という働き方です。「終身雇用」と聞くと、昔から続く日本独自の働き方のように思われがちですが、実は終身雇用が定着したのは、今からわずか70年ほど前の第2次世界大戦以降からと言われています。しかしバブル経済により日本経済の停滞すると、終身雇用制度は徐々に機能しなくなり、働き方改革関連法が施行された2019年から労働環境に大きな変化が訪れます。終身雇用制度は現在も根強く残っているものの、大卒から定年まで同じ会社で勤めあげる人の割合は、5割程度まで減少しているようです※8。※8厚生労働省職業安定局|平成30年 我が国の構造問題・雇用慣行等について|賃金が低迷している背景③ー1,p21そして現在。日本ではフレックスタイムやコアタイム、派遣社員やフリーランスなど、働き方が多様化し、会社に尽くす生き方ではない「ワーク・ライフ・バランス」に重点を置く生き方を選ぶ人が増えています。2.日本は長時間労働?日本の労働環境において、しばしば問題として出されるのが長時間労働です。終身雇用制度が失われつつあるとはいえ、「働き方そのもの」について、さらなる改善が求められているのが現状です。OECDが2022年に発表した世界の労働時間では、日本は世界で31位※9。「意外に少ないかな」と思われた方も多いかもしれませんが、これはあくまでも給与が支払われている労働時間であり、いわゆる「サービス残業」の時間は含まれていません。時間外労働や休日出勤など、日本は他国と比べて労働時間が増加傾向にあるため、ワーク・ライフ・バランスやウェルビーイングの充実のためにも労働環境の見直しが必要とされています。なお、OECDが発表した労働時間トップ3は次の国です(数値は1年当たりの実労働時間の合計を、1年の平均雇用者数で割ったもの)。1位・コロンビア・・・2405時間2位・メキシコ・・・2226時間3位・コスタリカ・・・2149時間※9 OECD|労働時間3.発展途上国への日本の取り組み以上、発展途上国と日本の働き方について解説してきました。最後に、日本の発展途上国への取り組みについて簡単に紹介します。日本政府は発展途上国の人々の安全を確保するため、1999年3月に国連に設置した「人間の安全保障基金」に373億円を拠金し、これまで195の事業を支援してきました※10。また生活及び労働環境の改善においては、途上国の人々自らが立ち上がる努力を応援する「自助努力支援」を提供し、モノだけではない支援を現在も続けています。※10独立行政法人|国際協力機構|6世界の援助潮流と日本の取り組みについて|Q18「人間の安全保証」とは?課題は山積み、でも自分にできることを考えよう発展途上国での労働状況と日本の働き方の違いについて解説しました。貧困や劣悪な労働環境を救うため、各国でさまざまな取り組みや支援がなされていますが、まだまだ多くの人々が苦しんでいるのが現状です。MiCORAYがテーマとしている「ウェルビーイング」とは、誰もが等しく幸せに生活できる指針でもあります。この記事を通して少しでも途上国に対する関心を高めていただき、「自分には何ができるか?」と考えるきっかけになれば幸いです。小さなことでも構いません。みなさんができることは、きっとあるはずです。★MiCORAYピックアップ★・Chance for Children・一般社団法人全国フードバンク推進協議会・独立行政法人|国際協力機構・JICA|海外協力隊・日本国際ボランティアセンター参考資料THE POVERTIST|開発途上国の雇用・貧困問題の現状と見通し国際連合広報センター|不平等ー格差を埋めよう厚生労働省|NEXT WORKSTYLE 働き方改革広がる